心の家路 遠藤淑子 白泉社文庫についてのあらすじと感想とまとめの記事です。
学校のロッカーで預かっていた麻薬の為に社会奉仕活動としてヘルパーに行く事になったジェシィ。ヘアメイクのレックスとジャーナリストのハルの2人暮らしの訪問先での賑やかでありつつ穏やかさに惹かれるジェシィだが、一人ではいられない彼女は知らずにドラッグパーティーに参加してしまうが…。
表題作含む8本のどれも心癒されるほっとさせてくれる短編集。
この記事はネタバレありなので閲覧にご注意ください。
心の家路(その他短編含む)のあらすじ
・明日は幸せ 女子高生ヒロインのレイラが祖母に宝塚入団の期待をかけられつつも、自分の才能と意欲のなさに悶々とする中一人の少年に出会う。
・グッピー 関本の家に泥棒が!その調査に来た刑事は中学時代の同級生グッピーだった。
・7月 漫画家と女優それぞれの夢を諦めきれずに苦悩する俊と鈴香。
・心の家路 ロッカーから麻薬が見つかった罰として社会奉仕活動でヘルパーを指示されたジェシィ。ヘルパー先はぶっきらぼうなヘアメイクのレックスと穏やかなハル。
・1/2ヒーロー 特撮の撮影中に足を怪我してしまった千晴の前に5年間行方不明だった双子の兄の一衛が現れた。千晴の代役として主役を務め昔からなんでもこなす兄は千晴にとって最大のコンプレックスだったが、一衛に大阪から追いかけてきた女性八木沢荘子が結婚を迫ってきたが…?
・チェスナット 愛犬チェスナットの墓の前で出会った家出少女を家に引き取るアラン。
少女はアランやハーマンさんの優しさに頑なな態度が少しずつ軟化するが…。
・星の大王様 1999年に降り立つ筈が間違えて2000年に地球に降り立った恐怖の大王様とお付のトカゲの目的は?
・今日もいい天気 テニス部の罰ゲームの肝試しで旧校舎のテレサ館に夜忍び込んだみのりに幽霊がくっついてきた!
(明日は幸せ)特別な才能を持たない辛さ
周りの期待に応えられないレイラの無力感…あ~この気持ち凄く共感!夢に真っ直ぐは輝いてるけど誰もが目指せる簡単な道ではないですからね。
期待している祖母には言えなくて日々の稽古に行かずバイトするのもリアル…。
そんな中で年少でトップスターの役者レオンに対する嫉妬するけど、実はそのレオンも声変わりや体格の変化と共に仕事の打ち切りで自分の無力さに悩まされていました。
憧れる存在の特別な人にも存在する悩みや行き詰まり。
レイラとレオンの喧嘩後にレオンが部屋の外での歌声に癒されるレイラ。
生きていく上で避けては通れない挫折や悩みや不安…。時には逃げてもいい、迷いながらも前に進もうと2人は別れます。
この後再会したのでしょうか?
(グッピー) 人を傷つけない難しさとグッピーの淡々とした優しさ
正しくいい事を言っているのにどこか笑えるグッピーがとにかくいいですね!
大学浪人したヒロイン関本に対するセリフとか、中学校の球技大会のセリフや転校し見送る関本へのセリフ…。
淡々としつつも相手を認めてくれる優しさが遠藤作品キャラの定番ですがやっぱりいいですね~(^o^)
確かに中学時代の関本厳しくて強くて怖いけど(笑)、人へ優しくするって簡単な事ではないですよね。
一人見送りに来て短いけど優しい言葉を伝えてバイバイと手を振るグッピーを見て、自分も優しくなりたいと涙を流す関本のシーンがとても印象的です。
グッピーみたいな人いいなぁ…素直ではないけど優しい関本も♪
(7月) 諦めきれない夢を追い続ける苦しさ
暑い夏の7月に初めて出会った俊と鈴香。2人はそれぞれ夢があり漫画家と女優の道を目指すが一向に上手くいかなくて焦りまくり相手に八つ当たりしてケンカ別れ…。
夢は諦めなければきっと叶うとか継続は力なりとか耳心地の良い言葉は聞くけど、実際に追い続ける難しさは沢山の人が痛感するのではないでしょうか。
続けても前に進んでる気が全くしない、自分の他に沢山の優秀な候補がごろごろいる…そんな現実に直面してそれを思いやってくれない相手にぶちまける、その後自己嫌悪…とこれでもかと言う位素直に描かれています。
ラスト長い時をかけて小さい段階ながらも夢を適えた2人が再会しますが、鈴香が思い出すのは俊に言われた厳しくムカついた言葉ではなく、励ましてくれた優しい言葉と伝えるシーンはじぃんときます。
(心の家路) 人生を旅に例えた優しいハル
麻薬に誘われいけないと思いつつも断れないジェシィ。一人になりたくなくて表面だけの付き合いをして孤独が何より怖い思いは共感できるのではないでしょうか?
車いすだけど優しく穏やかなハルはジェシィから見ると羨ましい立場ですが、ハルにはもうわずかな時間しか残されてなく、麻薬所持で怒ったレックスの理由と寿命を受け入れて人生は旅のようなものだからとジェシィに静かに伝えるハル。
素直ではなかったジェシィはハルの旅路を祈ります…。
レイアンがジェシィは知らずに麻薬を預かっただけと証言したり、不器用だけど実は優しいレックスなど切ないストーリーの中に心安らぐ箇所がちりばめられています。
(1/2ヒーロー) 完璧で羨ましい兄の一衛にもコンプレックス?
捻挫した瞬間叫びあが千晴が痛そうだけど笑える…!
双子の兄弟でなんでも出来る兄がいたらどうしても劣等感感じますよね。
でもそんな兄は逆にその器用さゆえに熱中できるものがなく、自分より能力は下だけどだからこそ厳しい俳優業界を諦めずに挑み続ける千晴の方が羨ましいという…
傍目から見ると贅沢な悩みの一衛だけどコンプレックスは才能や能力のあるなしに関わらず誰にでもあるという事。
恋をしてみたくて強引に一衛を迫ったりと行動力半端ないけど、双子の一衛をちゃんと見分けた苑子自身も何をしたいか分からず迷い続ける女性だったりと、それぞれのキャラに共感部分あるのではないでしょうか?
結婚式をドタキャンした苑子と双子はその後どうなったんでしょうか^^
(チェスナット) 虐待する親から逃げてきたけど求めていたのは優しさ
亡くなった愛犬とそっくりな後姿の少女。確かに髪が長いのでしゃがむとそっくり(笑)
しばらくは反抗的で可愛げがなかったけどアランやハーマンさんのような優しい人たちに接するうちに少しずつ態度が軟化するチェスナット。
虐待されつつも親から愛されたいと願い続けたチェスナットの言葉が胸に来ますね…。
最後南米へ行くアランに会う為に働いてお金を貯めるチェスナットですが、この彼女なら年相応の17歳に見えますね(笑)ラストで彼女の名前がようやく分かります(^O^)
(星の大王様) 大王様とトカゲの笑えるやりとり
ノストラダムスの大予言…あぁそんなのあったなぁ~と懐かしい。
のんびりした感じの大王様とビシバシ言う笑えるトカゲが(^O^)地球の食事を気に入ってご飯や納豆、牛乳を食する所がなんかほのぼの。
ヒロインの会里が転校直前に想い人の平井君に告白しつつも失敗してやけになった勢いで大王様のお誘いにやけっぱちで乗る所が面白い。
実は地球を消しに来た大王様が思いとどまり別れ際会里へ伝える淡々とした言葉の中に感じられる優しさがじぃんときますね。
(今日もいい天気) 意地張って封じ込めていた大切な思い出
ヒロインみのりも可愛くない性格してるので、あれでは彼氏むすっとなってしまうかなと。
でもこいつと呼ばれたくないし、八木君はあまり好きじゃないけど(笑)
ついてきた幽霊は8年前に出て行った父親と拾ったドングリを根元に埋めたみのりを気にして現れた木霊と言うシロカシの木の霊だったんですね。
父親の離婚のショックから根はいい子なのに素直になれず天気のいい日も大嫌いになってしまったみのりが幼い頃埋めたドングリを掘り起し思い出す所が…。
心の家路まとめ
どの短編も悩みやコンプレックスの身近なテーマなのでどのキャラにも共感できると思います。
ヒロインがいわゆるいい子ちゃんではなく、素直になれないひねくれた感じの可愛くない子ばかりなので逆に読みやすいです。
またシリアステーマにもほのぼのや気を抜いて笑えるギャグで読みやすい作品集の為、遠藤先生作品未読の方にはまずこの短編集からが入りやすいと思います!
短編集なので長編より気軽に読みやすく、読後感もいい物ばかりなので心が疲れた時におススメです。